昨年11月に出版されたツプテン・ジンパ博士の
「コンパッション 慈悲心を持つ勇気があなたの人生を変える」
について紹介しています。
https://oejbooks.com/products/compassion/
この本は、どのような目的で書かれたのか、
ということについて、ジンパ博士は次のように書いています。
「本書の目的は、おわかりのようにシンプルで野心的だ。コンパッションを、誰にでもわかる身近なものとして捉えなおし、個人・社会として取り入れたいこととして、義務感ではなく自然な欲求と位置づけることだ。
慈悲の精神を、高邁(こうまい)な理想として見上げる存在から、人の日常のごちゃごちゃした現実の中に活きる力へと変えていきたい。
本書では頭(マインド)と心(ハート)を効率よく訓練する方法を示し、慈悲の心を自らの基本姿勢とするための道筋をつける。
この姿勢がより幸福で、ストレスが少なく、より充実した人生と、より平和で安泰な世界の礎(いしずえ)となる。」
普通、慈悲心(コンパッション)というと、仏の慈悲だとか、何か自分には手が届かない、悟りを得たような人だけに可能なもののように思ってしまいがちです。
このコンパッションを知る前は、私もそのように思っていました。
そんな慈悲心を訓練したからといって身につくものだろうか?と思っていました。
でも実際にやってみると、もっと日常に実践できる身近なもののとして考えていいものだし、そのようにしてこそ、人生の役に立つものだということがわかるようになってきました。
「コンパッションは私たち人類の基本的な性質の根幹をなすものだ。
私たちの中にある慈悲心を見出し、育み、自分自身や他者、周囲の世界とつながることは、個人としての幸福と社会の繁栄のカギとなる。」
というふうに書かれていますが、まさにそのようなものとして、コンパッションを知ってもらう必要があるものだと感じます。
そのための具体的、実践的な手順がこの本に書かれています。
「情(なさ)けは人の為ならず」ということわざがありますが、
同じことがコンパッションにも言えます。
コンパッションというと、何か人のためにものごとをすることのように思いますが、でも実際には、その恩恵を最も受けるのは、そのコンパッションを実践したしたひとなのです。
ダライラマがいうように、コンパッションは私たちを幸福にしてくれます。
普段私たちが自分に対する落胆や後悔、不安といったことで頭を悩ましていますが、でもコンパッション、人への思いやりや貢献ということに関心が広がると、エネルギーが湧いてきます。自分の小さな悩みは、どうでも良くはなるわけではないですが、その自分の悩みだけが人生ではない、って思えてきますし、よりポジティブで、大きなエネルギーが湧いてきます。
自分のことだけに心が囚われてしまっていると、余計に落ち込んでしまうようなときでも、自分が愛する子供や家族、大切な人のためなら頑張れる、ということもあります。
自分のエゴを超えたこころで行動する結果、心は前より軽くなり、ストレスだったことも忘れさせてくれます。
自分自身や他者に対する忍耐と理解が生まれてきます。
コンパッションを持つことで、怒りや恨みや嫉妬のようなものの見方に囚われていた心から解放されて、別の考え方や感情への選択肢が生まれてくるから不思議です。
コンパッションがあれば、より孤独でなくなり、怖れが軽減されます。
そしてコンパッションを持った人々の親切が巡り巡って自分に返ってくるということが起こってきます。
本書の中で、外来クリニックで働く32歳の内科医の女性がCCTに参加し、コンパッションがどんな風に役立ったかについて話した言葉が掲載されています。
「私が見る患者の数は時々一日35人にも及ぶため、個々の患者と心のつながりを感じなくなっていました。彼らは人というよりただの数字でした。私はまったく疲れ切っていて打ちのめされていました。医療に携たずさわるのを辞めようかとも思っていました。
CCTに参加して慈悲の訓練を始めると、いろんな変化が起こりました。私が変わったのです。診察室に入る前に三つの深呼吸をするようになり、心の中で診察が終わった患者について考えるのをやめました。するとどういうわけか、診察室にいる人物に集中できるようになりました。目の前にいる患者の苦痛に再び関心が向かうようになりました。
もっと重要なのは、患者の処方箋を書くだけでなく、患者に対する気づかいを示せるようになりました。仕事は相変わらず忙しくやるべきことも多過ぎますが、以前のようなストレスを感じなくなりました。私の行動が再び意味を持ち始め、以前より調和がとれたように感じます。これからも医療と慈悲心の実践に励みます。」
やることが変わったわけでもないのに、コンパッションを持つだけで、これだけ人生が変わってしまうのです。
ますます混迷を深めている世界の中で、自分の中にあるコンパッションのパワーに目覚めることが、これからの世界を生きていく上でのカギになってくるものと思います。
CEI
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