ツプテン・ジンパ博士の「コンパッション 慈悲心を持つ勇気があなたの人生を変える」を読んだ方から、
とてもいい本だという感想が寄せられています。
しかし、最近の傾向として、いい本でもなかなか手に取ってもらえないのが現状です。
そこで、このブログでは、その「コンパッション」の本の、エッセンスをお伝えするため、いくつかのトピックを選んでお届けしていこうと思います。
そうすることで、「コンパッション」が、今の時代にどのような意味があるのか?
ということを少しでも理解していただければと思います。
ダライ・ラマは宗教家でありながら、科学者との対話を積極的に行い、宗教と科学との融合ということを積極的に推進してきていることでも有名です。
ダライ・ラマと科学者との対話の本や動画が多く出回っています。
ジンパ博士は、30年以上に渡ってダライ・ラマの専属通訳を勤めてきた人なので、そのような場には同時通訳として同席する機会が多くありました。
あるとき、ダライ・ラマは、インドの自宅で行われたマインド&ライフ・ダイアローグのイベントの一つで、彼がそこにいた科学者に向かって、次のように話しました。
「君たち科学者は、人の意識の病理のマッピングには素晴らしい業績を上げた。しかし、人の意識のポジティブな側面、たとえばコンパッション(慈悲心)といった資質について、ましてやそれを育てる可能性についてまったく何の実績も出していない。
一方で瞑想の伝統は意識の訓練や、コンパッションのようなポジティブな資質を伸ばすテクニックを開発してきた。君たちの素晴らしいツールを駆使して、瞑想という習慣が持つ効果を研究してはどうだろう? このような習慣の効果を科学的に解明できたら、もっと大きな世界に対して広めて行けるんだがね。スピリチュアルな修行としてではなく、健全な意識と感情のためのテクニックとしてね。」
つまり、科学者や心理学者は、人間の病理的な問題、その病気についてはいろんな業績はあるけれども、コンパッションのような人間の意識のポジティブな側面については、そんなに業績は出していないね、と科学者を挑発したのです。
ダライ・ラマとしては、そうすることで、「コンパッション」をチベット仏教のようなスピリチュアルな修行としてだけではなく、科学的な研究をすることによって、コンパッションを健全な意識と感情のためのテクニックとして、誰もが使えるテクニックになるのではないか、という提案をしたわけです。
このダライ・ラマの提案の後、アメリカではマインドフルネスの潮流が起こりはじめました。
その中で、1979年に、マサチューセッツ大学医学部に、ジョン・カバット・ジンが慢性痛に悩む人々のために開発されたマインドフルネスの訓練を使ったクリニックを開設し、このテクニックはMBSR『マインドフルネスをベースにしたストレス低減法』として知られるようになりました。
その成功によって、臨床の現場がマインドフルネスを採用し、ストレス、慢性痛、注意欠陥障害など、多種多様な問題に対する治療効果を試し始めることになりました。
そのような医療現場のみならず、マインドフルネスはGoogleなどのIT企業でも社員研修として取り入れられるようになり、アップルのCEOスティーブ・ジョブズが禅に傾倒していたことからも瞑想がブームとなりました。
今日マインドフルネスは治療、経営、リーダーシップ訓練、学校、競技スポーツなどの現場で生かさるようになっています。
その結果「マインドフル育児」、「マインドフルリーダーシップ」、「マインドフルスクール」、「ストレス対策のマインドフルネス」などが主流となり、アマゾンでマインドフルネスをキーワードに検索すると、三千冊以上の書籍がヒットするまでになっています。
そこでジンパ博士は言います。
「今や(そのマインドフルネスに続くものとして)、コンパッションが世界の次の大きな潮流となるための態勢が整った。人の性質や行動を理解する上で、コンパッションの占める位置を捉えなおす運動が科学分野で増加している。コンパッションの訓練に基づくセラピーは、社会恐怖症から低すぎる自己肯定感まで、そしてPTSD から摂食障害まで多様な心身症の症状改善に効果を現している。教育者たちは、子供たちの社会・情緒・倫理面の成長の一環として親切心やコンパッションの教育を取り入れようと模索している。
そんな中で、宗教色のないスタンダードなコンパッションの訓練のためのプログラムを構築する機会が私に訪れた。こうして誕生したのが今日「コンパッション育成トレーニング」(CCT)と呼ばれるプログラムだ。」
つまり、この「コンパッション」の流れは、突然生まれたものではなく、これまでのマインドフルネスの流れを引き継ぎ、さらに一歩先に歩みを進めるものとして、この世界に現れてきたものなのです。
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